「兵庫経協」2023夏号

場合には、振り返りの段階で躓いてしまいます。 そうならないためには、まず、上司の皆さんが 「この部下を育てたい」「この部下には可能性があ るんだ」と思い、相手を信じる気持ちを持つこと が大切です。そのうえで、雑談をするなどして、お 互いの人となりを理解するよう努め、「私はこん な人間だから安心して話してくださいね」という 気持ちで部下に接するようにします。 部下を育てながら上司も成長し、組織全体の成 長につながるのが、この「キャリア面談1on1ミー ティング」を行う目的です。 また、上司の皆さんが、日頃からキラキラと輝 いて仕事をしていれば、部下の皆さんは、仕事に 対して夢を持ち、いつか上司のように生きがいを 持って働きたいと思うようになり、「ここに入社 してよかった」「この上司は話しやすい」と感じる ようになれば、コミュニケーションが深まり、心 理的安全性が高まっていきます。 人的資本経営で「エンゲージメント」 を高める 人的資本開示について、現在、日本では義務化の 規定はありませんが、2021年6月に改訂されたコー ポレートガバナンスコードに、「人的資本や知的財 産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課 題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に 情報を開示・提供すべき」と示されました。さら に、2023年3月期の有価証券報告書から企業に人 的資本情報の開示が必要となりました。【参考文献②】 また、内閣官房が2022年に発表した「人的資本 可視化指針」では、開示が求められる人的資本に 関する情報の一つに組織の「エンゲージメント」 が挙げられています。【参考文献③】 この「エンゲージメント」とは、従業員と企業 組織の信頼関係や愛着心をベースにして生産性を 高める経営手法をいいます。 特に、昨今では「ジョブ型雇用(職務給)」採用 に人気が高まり、定年まで働き続けるという意識 も低下し、組織貢献の意識と個人の労働対価とが 対等の立場である意識が強まってきている中で、 エンゲージメントを重視した経営を行うことで、 優秀な人材の確保や離職防止、生産性が高まる効 果が期待できます。従業員のエンゲージメントを 高めるためには、まずは、上司と部下がお互いに 現状を把握し、価値観を共有して「関係の質」向 上に取り組んでいくことが必要です。この「関係 の質」を高めていく施策は、ダニエル・キム教授の 「成功の循環モデル理論」でも提唱されています。 まず、最初は、上司と部下が相互の理解を深め て、お互い尊重し合い、一緒に解決策を考えてい く「関係の質」を高めることが重要です。 つまり、これが「1on1ミーティング」になると いうことです。 次に、この「関係の質」が高まると、部下は自 分で気づき、面白いと感じるようになり、「思考 の質」が向上します。面白いと感じるので、自分 で考え、自発的に行動するようになって、「行動の 質」も向上していきます。その結果、「結果の質」 が向上して成果が挙がり、組織の中でさらに信 頼関係が高まって「関係の質」が向上するという 「グッドサイクル」に繋がっていきます。【参考文献④】 この理論をもとに、心理的安全性を担保し、従 業員に不安なく仕事に取り組める職場環境を用意 して仕組化することが、経営者、管理職の最大の ミッションとなり、人的資本経営に繋がっていく と考えます。 5 当協会では、執筆者である諌山社長を講師に招 いた研修を開催する予定です。 管理職のための「年上部下・再雇用者のモチ ベーションアップ法」研修 [日時]2023年9月11日(月)9:30~16:30 [定員]40名 [会場]神戸市産業振興センター9階 会議室901 くわしくは、当協会ホームページをご覧ください。 兵庫県経営者協会 アチーブ人財育成株式会社 代表取締役社長 諌山 敏明 関西学院大学卒。住友生命保険相互会社 入社。拠点長の社内表彰で全国優勝を 果たし、同社の人材開発と採用に従事。 その後、大手人材派遣会社の人事部長で転職。2012年 独立起業。年間200件を超える企業研修の依頼が入る 人気講師。2013年より毎年フィンランドに訪問。世界 トップクラスの教育法を習得した後、NPO法人を設立。 研修にフィンランド式教育法を活用する。㈱幻冬舎、 ㈱プレジデント社に出版、寄稿の実績もある。 【参考文献①】 *一般社団法人日本経済団体連合会「人材育成に関する アンケート調査結果」2020年1月21日発表より 【参考文献②】 *株式会社東京証券取引所「コーポレートガバナンス・ コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の 向上のために~」より 【参考文献③】 *内閣府「人的資本可視化指針 非財務情報可視化研究会」 2022年より 【参考文献④】 *マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授によ る「成功の循環モデル」より 6 兵庫経協 2023年夏号

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