「兵庫経協」2022新年号

新型コロナウィルス感染症に罹った 現場作業に従事する従業員が、後遺症 (異常なだるさ)が続くことにより、 かかりつけ医の診断書とともにデスクワークへの 異動希望を申し出てきました。 会社としてどう対応すべきでしょうか。 1 回答 会社には、従業員の異動希望に応じ る義務はありませんが、業務により新 型コロナウィルス感染症の後遺症(以下「罹患後 症状」といいます。)が増悪しないよう、治療と仕 事の両立のために必要となる一定の就業上の措置 や治療に対する配慮を行う必要があります。 そのためには、主治医、産業医等の意見を参考 にして、当該従業員の罹患後症状を正確に把握し たうえで、同症状に応じた就業上の措置や治療に 対する配慮を個別具体的に考える必要があります。 2 理由 (1)検討方法 設問に対する検討は、①従業員の異動希望に 対する基本的な考え方、②疾病を抱える従業員 より異動希望があった場合の対応、③①及び② を前提に同疾病が新型コロナウィルス感染症の 罹患後症状である点をどのように評価するべき かという観点から行います。 (2)①従業員の異動希望に対する基本的な考え方 会社と従業員との間の労働契約には、賃金の ほか、勤務日、勤務時間、勤務場所、労務提供 先、職種・業務内容が定められており、かかる 労働契約の内容を変更するには、原則として、 会社と従業員の合意が必要です。 会社の従業員に対する異動命令は、就業規則 等に異動命令に関する定めがある場合には、同 命令が濫用になる事情がない場合には、有効に なります。 他方で、従業員の会社に対する異動希望は、 一般的な労働契約や就業規則等には、従業員の 会社に対する異動請求権を認める規定は存在し ないことが一般ですので、会社には従業員の異 動希望に応じる義務はありません。 (3)②疾病を抱える従業員より異動希望があった 場合の対応 労働安全衛生法では、会社による従業員の健 康確保対策に関する規定が定められており、そ のための具体的な措置として、健康診断の実施 及び医師の意見を勘案し、その必要があると認 めるときは就業上の措置(就業場所の変更、作 業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減 少等)の実施を義務付けています(労働安全衛 生法第66条、第66条の4、第66条の5)。 労働安全衛生法の健康確保対策に関する諸規 定は、従業員が、業務に従事することによって、 疾病を発症したり、疾病が増悪したりすること を防止するための措置などを会社に求めている ものであり、会社が疾病を抱える従業員を就労 させると判断した場合には、業務により疾病が 増悪しないよう、治療と仕事の両立のための必 要となる一定の就業上の措置や治療に対する配 Q A 弁護士 長谷部 信一 (神陵法律事務所) 新型コロナウィルス感染症の後遺症を理由とする異動希望に対する対応 Q&A 労働問題 14 兵庫経協2022年新年号

RkJQdWJsaXNoZXIy NDU4ODgz