「兵庫経協」2023秋号

経協レポート KEIKYO REPORT 弁護士 秋山 凌也 (井関法律事務所) 退職間際の年休取得を止めさせる事は可能か。 長年勤務していた従業員Aから翌月 末日での退職の申出がありました。 退職は了承しましたが、本人より、 年休が貯まっているので、翌月はほぼすべての日 で年休を使う申請がありました。 他の従業員への影響もありますので、年休取得 を止めさせたい、または年休取得前に退職させた いのですが、可能でしょうか。 1 年次有給休暇制度の概説 使用者は一定の要件を満たした労働 者に法所定の日数の年休を与えなけれ ばならない(労基法39条1項)、これがいわゆる「年 次有給休暇制度」です。年次有給休暇の権利(年 休権)は、6ヶ月以上継続勤務し、全労働日の8割 以上出勤した労働者に対して当然に発生します。 そして、使用者は年休を労働者の請求する時季 に与えなければなりません(労基法39条5項)。労 働者が年休の時季を指定する権利を「時季指定 権」といいます。 これに対し、使用者は、労働者の請求した時季 に年休を与えることが「事業の正常な運営を妨げ る場合」には、他の時季に年休を与えることがで きます。これを「時季変更権」といいます。 2 時季変更権の行使 本件のように、従業員から退職日までほぼ全て の日で年休を使いたいとの申出があった場合、会 社としてはどのような対応が可能でしょうか。 まず考えられるのが、時季変更権の行使です。 前述したとおり、時季変更権は年給付与が「事業 の正常な運営を妨げる場合」に、年休を与える時 季を変更することができる権利です。ここで、「事 業の正常な運営を妨げる場合」に当たるか否かは、 事業所の規模、業務内容、当該労働者の担当する 職務の内容、指定された休暇中に予測される業務 量の多寡、代替要員確保の難易、時季を同じくし て休暇を指定している他の労働者の員数、休暇取 得に関するこれまでの慣行などを考慮して個別具 体的に判断されます。すなわち、これは①業務遂 行のための必要人員を欠くなど業務上の支障が生 じることだけでなく、②代替要員確保などの使用 者側が状況に応じた配慮を尽くしているかという 点を考慮して判断されることを示しています。 もっとも、本件に特有の問題として、退職前に 未消化の年次有給休暇を全て取得すると申出をし た従業員は今後年次有給休暇を取得する機会を失 うのですから、そもそも要件を満たしたとして も、時季変更権の行使はできないのではないかと Q A Q&A 労働問題 8 兵庫経協2023年秋号

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