「兵庫経協」2022夏号

皆様こんにちは、兵庫県歯科医師会地域保健委 員会委員の森永です。 令和4年6月7日に骨太の方針2022が閣議決定さ れ、生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科 健診)の具体的な検討が盛り込まれました。 近年の保険改訂においても、SPT(サポーティ ブペリオドンタルセラピー、いわゆる歯周病の管 理(治療とはまたちがいます)やオーラルフレイ ル(口腔機能低下)防止に焦点をあてた改訂が目 立ち、国として医療給付において治療から予防へ とシフトする方向性が見て取れます。 私が学生の頃は、「保険給付は現物給付、治療 は保険適用だけど、予防は給付対象外」という原 則を耳にタコができるほど聞かされたものでした が、先達の諸先生方、歯科医師会の啓発活動のお 陰でしょうか、隔世の感があります。 では、なぜ国として予防へと舵を切ろうとして いるのでしょうか。 社会保障費の増大が叫ばれる昨今、基本的には 国として、より低コストで、より効果の高い施策 を実施することで国民の健康増進と社会保障費の 圧縮を図ろうとしています。つまり、予防重視に 舵を切る=予防したほうが医療費削減につながる、 ということがデータとして表れてきたということ です。いくつか例を挙げると、歯の数が20本未満 で、入れ歯を使用していない人の場合、認知症の 発症リスクが最大1.9倍、転倒するリスクが2.5倍、 要介護認定を1.2倍受けやすいことがわかってい ます。(あくまで因果関係ではなく、相関関係です が。)また、歯周病はいくつかの全身疾患と密接な かかわりがあることがわかっています。例えば、 糖尿病。歯周病が原因で発生する炎症性サイトカ インがインスリンの効果を弱め糖尿病の進行を増 悪してしまうことがわかっています。また、心臓 血管疾患。血管内壁に付着するプラーク(歯科で も歯に付着する細菌の塊をプラークと呼びます) に、歯周病菌由来のものがあることがわかってい ます。血管プラークにより血管が狭まり、高血圧、 動脈硬化、狭心症、脳梗塞などの血管疾患を引き 起こすリスクが上昇します。加えて、妊婦さんの 低体重児早産。歯周病に罹患している妊婦さんは 低体重児早産のリスクが7倍になるといわれてい ます。他にも、オーラル(口腔)を含む、フレイル 予防も重要ポイントとなります。 フレイルとは、健康な状態から、要介護へと移 行する中間地点と位置付けられ、ざっくりという と「だんだん弱っていく状態」を指します。要介 護となるとマンパワーも費用も健康な方に比べ、 べらぼうにかかることになります。 つまり、社会保障費をできるだけ圧縮したい国 としては、フレイルをできるだけ防止し、健康な状 態で寿命を迎える(いわゆる、ピンピンコロリ)割 合を可能な限り増やしたいのです。もちろん、健康 寿命を延ばし、一生涯にかかる医療費を抑えるとい う意味で、患者さん(国民)側にも利益はあります。 オーラルフレイル防止の1丁目1番地はなんと いっても「自分がオーラルフレイルである」とい うことを自覚することです。自覚しないと、中々 意識をもって対策もできませんからね。 歯を虫歯から守る、歯周病の管理をする、オー ラルフレイルの防止。すべてにおいて、大事なの は「定期的に検診を受けるかかりつけ歯科医」を つくるということです。 骨太の方針にも記載される程、定期的な歯科検 診の重要性が注目を受けています。 この記事をご覧になられている読者様も、これ を機会に定期的な歯科検診を検討していただけれ ばと思います。 【歯の健康シリーズ】 T O P I C S 歯科検診の重要性 兵庫県歯科医師会 地域保健常任委員会委員 森永 泰樹 17 兵庫経協2022年夏号

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