「兵庫経協」2022夏号

●懲戒処分の有効性 無断アクセス等が懲戒事由に該当するとして も、これを理由とした懲戒処分が有効かについ ては、別途検討を要します。この点、内部通報 を行うための資料を収集する過程で無断アクセ スが行われたという事案においては、その事情 が通報者に有利に斟酌され、懲戒処分が権利濫 用として無効とされる可能性も十分にあります。 個別事案における懲戒処分の有効性は、①通報 に係る事実の重大性や真実相当性、②無断アク セス等に係る情報の機密性、③無断アクセス等 の必要性や態様の相当性等を総合考慮のうえ判 断されることになりますが、特に通報内容が真 実である場合は、無断アクセス等を理由とする 懲戒処分の有効性はそう簡単には認められない と考えておくべきでしょう。 関連する裁判例としては、勤務していた金融 機関の顧客情報を不正に入手し、外部に漏洩し たことを理由とする懲戒解雇の有効性が争われ た事案について、内部の不正を糺すという目的 からなされた行為は、会社の利益に合致すると ころもあり、懲戒解雇の相当性判断においては 当該行為の違法性は大きく減殺されるとし、懲 戒解雇を無効としたものがあります(宮崎信用 金庫事件・福岡高裁宮崎支部平成14年7月2日判 決・労働判例833号48頁)。 3 本件について 本件では、内部通報に係る無断設計変更が あったということであれば、Aが無断アクセス により取得した設計データ等はまさに当該不正 を裏付ける証拠という位置づけになりますので、 Aに対する無断アクセスを理由とする懲戒処分 は、けん責等の軽いものであったとしても無効 と判断される可能性が高いと考えます。また、 知人の弁護士に設計データ等を提供したという 点についても、弁護士は法律上守秘義務を負っ ていることや、内部通報に関する相談のために 提供したという事情からしますと、Aに対する 社内情報の漏洩を理由とする懲戒処分について も無効と判断される可能性が高いと考えます。 これに対し、配置転換については、内部通報 が行われる前からAの勤務態度を理由に検討さ れていたという事情がありますので、内部通報 を理由とする不利益取扱いには該当しません し、権利濫用により無効とされることも無いで しょう。ただし、Aからは内部通報を理由とす る不利益取扱いに該当するとか、内部通報を契 機とする嫌がらせ目的で行われたものであり権 利濫用であるといった反論が行われることも予 想されますので、配置転換の検討を開始した時 期等の立証可能性を含め、弁護士に相談するな どして慎重に対応すべきです。 以上 兵庫県経営者協会には経営側の視点で活動する「兵庫県経営法曹会」の メンバーが多数在籍しています。そんな弁護士陣に日頃のお悩みを相談 しませんか? 企業経営に関わることであれば、どんなことでも結構です。安心して相談 できる弁護士をご紹介しますので、是非、ご活用ください。 当協会ホームページのインフォメーションにある右の画像をクリックしてください。⇒ https://www.hpea.jp 兵庫県経営者協会 初回無料 (60分程度) 13 兵庫経協2022年夏号

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