「兵庫経協」2022夏号

勤務態度に問題のある従業員Aにつ いて配置転換を検討していたところ、 今般、内部通報窓口にAから「取引先 に無断で設計変更が行われている製品がある」と の通報がありあました。Aは、当該製品の設計 データ等を通報窓口に提出してきましたが、これ らはAにアクセス権限が認められていない情報で す。また、Aは、知人の弁護士に設計データ等を 提供し相談しているようです。なお、無断設計変 更の有無は、調査中ですが、どうも一部は事実の ようです。 当社の内部通報制度では通報者への不利益取扱 いを禁止しています。しかし、Aが無断アクセス して設計データ等を取得した行為は情報管理規程 違反ですので、これを理由にAの懲戒処分を検討 しているのですが、問題ありますか?また、配置 転換はこのまま進めてもよいですか? 1 通報者に対する不利益取扱いの禁止 通報者に対する不利益取扱いの禁 止は、内部通報制度を有効に機能 させるうえで大前提となる重要なルールです。 また、改正公益通報者保護法(本年6月1日施行) は従業員数300人超の会社に対し内部通報対応 体制の整備を義務付けており、通報者に対する 不利益取扱いが行われた場合には、内部通報対 応体制に不備があるとして同法に基づく行政措 置の対象となり得ますので注意が必要です。 もっとも、禁止されているのは、あくまで 「内部通報を理由とした」不利益取扱いであっ て、通報者にとって不利益な措置の一切が禁止 されるわけではありません。逆に言うと、内部 通報とは別の理由があるのであれば、その理由 をもって通報者に不利益な措置を行うことは可 能です。 例えば、通報者自身が通報に係る不正に関与 しているようなケースにおいては、不正に関与 したことを理由に通報者に懲戒処分を行うこと は可能です。また、本件のように内部通報のた めの資料を収集する過程で不正があったケース においても、当該不正を理由に懲戒処分を行う ことは、内部通報を理由とする不利益取扱いの 禁止には抵触しません。 2 資料の収集過程における不正を理由とする懲 戒処分 ●懲戒事由該当性 通報者が内部通報を行う目的でアクセスが許 可されていない社内情報に無断アクセスして情 報を取得することは、実務的にも珍しいことで はありませんが、このような行為は情報管理規 程等に違反するものとして懲戒事由に該当しま す。また、本件では、Aは、知人の弁護士に無 断アクセスにより取得した設計データ等を提供 しているとのことですが、これについても社内 情報の漏洩として懲戒事由に該当します。 Q A 弁護士 吉田 裕樹 (京町法律事務所) 内部通報と資料収集過程での不正 Q&A 労働問題 12 兵庫経協2022年夏号

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