「兵庫経協」2022新年号

舌やのどの筋力低下、唾液分泌量の低下、嚥下 反射機能の低下などにより口から食事を取ること が困難になった状態のことを「摂食嚥下障害」と いいます。病院において脳血管障害の後遺症とし て、また口腔がんや咽頭・喉頭がんの術後、アル ツハイマー型認知症やパーキンソン病、ALS等 においてもよく見られますが、超高齢化社会と なった現在、老衰によるオーラルフレイルによっ て摂食嚥下障害が急速に増えてきています。オー ラルフレイルは、口腔乾燥、舌圧の低下、咀嚼能 力の低下、舌の汚れ、滑舌の悪さ、嚥下の状態 を検査し診断します。歯科医師により診断され、 オーラルフレイルを改善するためのリハビリを行 うことができます。 摂食嚥下障害になった場合、窒息や肺炎のリス クが上がるため、病院では絶食で点滴、経鼻栄養 が用いられ、嚥下評価を行いながらペースト食か ら徐々に食事形態を常食に戻していきます。治療 で改善せず食べられない場合は胃ろうを増設し胃 から食事を摂るようになります。刻み食とソフト 食(舌でつぶせる柔らかい食事)の間のものを食 べている方は、家族と同じものが食べられず、宅 配のソフト食、冷凍のソフト食を取り寄せたり、 ドラッグストアのパウチの嚥下食を食べているこ とが多いです。そこで、そのような方のためのケ ア家電「Delisofter」が昨年に株式会社GIFMOか ら発売されました。パナソニックの電気圧力鍋を 嚥下食用に進化させ、食材の内部に上手に切れ込 みを入れるためのデリカッターを開発したこと で、家族と同じおかずを「Delisofter」に入れるだ けで食材を舌でつぶせる硬さにすることができま す。家族と同じ食べ物にひと手間かけるだけで、 嚥下障害の方が食卓で同じものを食べることがで きます。ずっと好きだった食べ物を我慢されてい た方がもう一度食べることができる大きな可能性 を持つ家電です。ステーキや唐揚げも舌でつぶせ る硬さに変えることができます。巻き寿司も海苔 が喉に張り付くので難しいのですが、口の中で溶 けるように変化するため食べることができます。 私も発売と同時に購入し、在宅のソフト食を食べ る患者さんに食べてもらいましたが非常に好評で した。「Delisofter」は現在、グランフロント大阪 のパナソニック展示場にて展示されています。ぜ ひ行かれる機会があればご覧下さればありがたい です。 また、食べられる食べ物の硬さを測定する「カ メルカ」という器具が、「はなすたべるくらす舎」 より発売されています。500mlのペットボトルの 先にカメルカを装着し、その重さで食べ物が貫通 するかで判定します。180mlで舌でつぶせる圧力、 400mlで歯茎で簡単につぶせる圧力に相当します。 安価で、毎日キッチンで簡単に使うことができる ため「Delisofter」で柔らかくする程度を食べられ る硬さに調整する指標にすることができます。 ただ、食べられる最大の硬さのものばかりだと 舌が疲れてしまい完食ができません。そのため、 最大の硬さのものを1品用意し、あとはもっと柔 らかいものでメニューを構成します。それを交互 に食べていくことで、家族と一緒に楽しい美味し い食卓が完成します。 話は変わりますが、嚥下食は徐々に街中にも増 えてきています。吉野家はレトルトの嚥下食の牛 丼の具を発売していますし、スープストックトー キョーも嚥下食を店舗で販売を始めました。外出 した時に、何を食べようか、何か食べられるだろ うか、家族と一緒に食べられたらいいなという思 いが達成できる場所が増えてきているのは、リハ ビリに携わる者として大変ありがたいと感じてい ます。これから訪れる超高齢化社会にむけて、い ろいろな商品が生まれることを期待しています。 【歯の健康シリーズ】 T O P I C S 摂食嚥下障害を救うケア家電 兵庫県歯科医師会 地域保健委員会委員 大川 修司 16 兵庫経協2022年新年号

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