「兵庫経協」2024夏号

2 「共働き」世帯では「家族手当」を受給できない? 「家族手当」は、「サラリーマンの夫」「専業主婦の妻」といった夫婦間の性別役割分業が一般的であった 高度経済成長期に定着してきた制度とされています。 1985年以降の専業主婦世帯数と共働き世帯数の推移を見てみると、1985年には718万世帯の共働き世帯 に対して、専業主婦世帯は936万世帯と、専業主婦世帯が圧倒的に多くなっていました。しかしながら、直 近の調査である2022年のデータを見てみると、専業主婦世帯が430万世帯まで減少したのに対して、共働き 世帯は1,191万世帯まで増加しており、1985年と真逆の形にグラフが変化していることがわかります(図3)。 多くの企業で「家族手当」を受給す ることができるのは、その収入が130万 円以下の配偶者に限られるということ はすでに紹介しましたが、そうすると、 夫婦共働きの多くの世帯では「家族手 当」を受給することができません。こ うした社会の変化をふまえると、「家族 手当」も、従来の「妻は家庭を守る」と いう前提ではなく、「共働きが普通なの だ」という前提のものへと変えていく べきではないでしょうか。 3 「家族手当」から「子ども手当」へ そこで、「家族手当」を「共働き」の子育て重視のイメージへと切り替える方法を紹介したいと思います。 まずは、「家族手当」を「子ども手当」と呼び直します。そして、「家族手当」の支給対象から配偶者を外し、 子どもを持つ従業員に支払うというかたちで、その原資を割り振り、子どもへの支給額を増やしましょう。 ただし、障害者認定がある配偶者の場合には、例外として支給するのがよいでしょう。なお、父母や兄弟 といったその他の家族分については「子ども手当」の対象とはしません。 次に、支給対象となる子どもの範囲は、「年齢」や「就学状況」から支給制限を設けるのが一般的ですが、 子どもについては、在学中であれば「22歳まで」支給するのがよいでしょう。現在、支給の対象となる子ど もの年齢を「18歳まで」としている企業が多いと思われますが、文部科学省の2023年度の「学校基本調査」 によると、大学進学率は過去最高の57.7%を記録しています。大学の学費を負担する世帯が増えていると いうことですから、「家族手当」が高校卒業と同時に支給されなくなると生活に影響が出てしまいます。 その他、子どもの人数により制限を設けるのかなども決めておく必要がありますが、人数による制限は なくすべきでしょう。「子ども手当」を手厚くしたほうが、子育て支援にもなり、子育て支援を促進する国 の政策にも沿ったものになります。 もっとも、昨今では、結婚や子供を持つことを選ばない人も増えています。「子ども手当」の支給額を検 討する際には、支給対象から外れる従業員との間で不公平感を生んだり、納得感を損なったりしないよう にするためにも、「子ども手当」だけではなく賃金全体のバランスも十分に考える必要があります。 「家族手当」を含め、基本給や諸手当を含めた賃金制度見直しの際には、ぜひ専門家へ相談しながら進め ていただければと思います。 出典:男女共同参画局「男女共同参画白書 令和5年版」共働き世帯数と専業主婦世帯数の 推移(妻が64歳以下の世帯)より 図3 社会保険労務士法人キラリス 代表 糟谷 芳孝 平成12年に社会保険労務士事務所を開業。令和2年3月に創業20周年を機に事務所を法人化。社会保険労 務士法人キラリスの代表に就任する。創業から一貫して、中小企業の労務管理に携わり、延べ1000人を超 える経営者の相談に応じる。商工会議所、経営者協会等での講演実績も多い。 5 兵庫経協2024年夏号

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