「兵庫経協」2024夏号

り、上記リスクを回避しています。 ⑵ 上記⑴のとおり、弁護士又は弁護士法人以外 の者が法律事務を取り扱うことは禁じられてい ますので、上記⑴②の場合、退職代行サービス 業者は、会社と退職時期の調整等の退職条件 に関する交渉等を行うことは出来ません。仮 に、退職代行サービス業者が弁護士法72条に反 して従業員の代理人として会社と交渉を行い、 何らかの合意が成立した場合であっても、かか る合意は、その内容及び締結に至る経緯等に照 らし、公序良俗違反の性質を帯びるに至るよう な特段の事情がない限り、無効とはなりません (平成29年7月24日最高裁第1小法廷判決)。 2 具体的な対応方法 ⑴ 退職意思の確認の要否 ア 退職代行サービスが弁護士によって実施さ れている場合 退職代行サービスが弁護士によって実施さ れている場合、弁護士は弁護士法上従業員を 代理して従業員による退職の意思表示を行う ことが可能ですので、委任状により退職代行 サービスを実施している弁護士が従業員の代 理人であることが確認できれば、退職代行 サービスを通じて提出された退職届をもっ て、従業員が退職意思を有していることを認 定することが可能です。この場合において、 会社が従業員の代理人弁護士に断ることなく 従業員に直接連絡を取って従業員の退職意思 を確認することは、法的に禁止されているも のではありませんが、控えるべきです(なお、 交渉の相手方に弁護士が就任している場合に おいて、会社ではなく、会社が選任した弁護 士が相手方本人と直接交渉することは、弁護 士職務基本規程52条において禁止されていま す。)。 イ 退職代行サービスが民間業者によって実施 されている場合 退職代行サービスが民間業者によって実施 されている場合、当該業者において、退職届 とともに従業員からの委任を受けている旨が 記載された委任状とを提出していたとして も、当該業者が従業員を代理して退職の意思 表示を行うことは弁護士法72条に違反する行 為であるため、会社は、当該業者を従業員の 代理人として取り扱うことは出来ません。そ のため、当該業者が提出した委任状に法的効 力はなく、仮に、当該委任状に本人と直接交 渉することを控えるよう記載されていたとし ても、会社において、当該業者との遣り取り が強制されることにはなりません。 退職代行サービス業者によって提出された 退職届は、当該業者が使者として会社に提出 したものに過ぎず、当該届のみでは従業員の 真意を把握することは出来ませんので、会社 は、従業員に直接連絡をして、退職意思の有 無を確認する必要があります。当該従業員が 会社からの連絡に応答しない場合であって も、上記退職届が従業員の真意に基づくもの である場合には、前記1⑴のとおり、従業員と 会社との間の雇用契約が期間の定めのないも のである場合には、会社への退職意思の到達 後2週間が経過することによって会社と従業 員との間の雇用契約が終了することから、会 社はこのことを念頭に置いた事務処理を進め る必要があり、例えば、退職に伴い必要とな る書類を当該従業員に直接郵送し、その返送 を待つことで当該従業員の退職意思を確認す ることができます。 なお、退職届に従業員の実印が押捺されて おり、印鑑登録証明書も添付されている場合 には、原則として印鑑登録証明書は従業員本 人でなければ交付を受けることは出来ず、従 業員本人が退職代行サービス業者に印鑑登録 証明書を提供したからこそ、同業者が従業員 の印鑑登録証明書を保有していたと考えるの が自然であるため、この場合には当該退職届 によって従業員が退職意思を有している事実 を認定することは可能であり、従業員に直接 連絡をして退職意思を確認することは必要あ りません。 ⑵ 従業員への説得の可否 ア 退職代行サービスが弁護士によって実施さ れている場合 退職代行サービスが弁護士によって実施さ れている場合、退職を翻意するよう説得を試 みるために従業員との交渉を希望していると しても、会社が従業員本人に直接連絡を取る ことは控えるべきです。従業員に弁護士が就 任しているにもかかわらず従業員本人に連絡 を取り続けることは、従業員に過度な負担を 与えることになり、これにより従業員の心身 を害することになれば、従業員から損害賠償 請求を受ける可能性があります。そのため、 従業員に弁護士が就任している場合には、退 職を翻意するよう促す場合であっても、当該 弁護士を通じて交渉すべきです。 13 兵庫経協2024年夏号

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