「兵庫経協」2024夏号

経協レポート KEIKYO REPORT 弁護士 太田 理映 (京町法律事務所) 退職代行業者と遣り取りする際の留意点 退職代行サービスを名乗る者が、突 然、当社の若手従業員の委任状と退職 届を提出した上で、速やかに当該従業 員の退職手続を行うよう要求してきました。 当該従業員は非常に真面目に仕事に取り組み、 所属部署の上司や役員の評価もよく、将来が期待 されています。当社としては、これからも当該従 業員に勤務を続けてもらいたいと考えており、当 該従業員と直接話し合って退職を翻意するよう説 得したいのですが、上記退職代行サービス業者か らは、当該従業員との直接の交渉を行わないよ う、申入れを受けています。 当社としては、どのように対応すればよいので しょうか。 退職代行サービスが弁護士(弁護士 法人を含む)によって実施されている 場合には、法的には禁止されていない ものの、当該弁護士を通じて交渉をすべきです。 退職代行サービスが民間業者によって実施されて いる場合には、当該従業員と直接交渉することは 可能ですが、退職代行サービスが利用されている 経緯に鑑みれば、退職の翻意を目的とする直接交 渉は控えるべきです。従業員の退職意思を確認し た後に、退職条件について交渉する必要がある場 合には、民間業者が実施する退職代行サービスで は従業員を代理することは出来ませんので、当該 業者ではなく、従業員本人と直接交渉してください。 1 退職代行サービス業者の法的位置づけ ⑴ 近年、従業員が会社に対し退職の意向を伝え る際に、退職代行サービスを利用するケースが 増えています。今春も、多くのメディアにおい て、新卒社員が入社後間もなくして退職代行 サービスを利用して退職するというトピックが 取り上げられていたため、退職代行サービスに ついては皆様の記憶にも新しいところではない でしょうか。 さて、退職代行サービスとは、諸事情により 従業員が会社に対して直接退職の意向を伝える ことがためらわれる場合に、従業員に代わって 第三者が会社に対して退職の意向を伝えること を内容とするものであり、①弁護士(弁護士法 人を含む)によって実施されているもの、②民 間業者によって実施されているものの2つに大 別されます。会社に退職の意向を伝えることは 退職の意思表示に該当し、従業員と会社との間 の雇用契約が期間の定めのないものである場合 には、会社への意思の到達後2週間が経過する ことによって会社と従業員との間の雇用契約を 終了させる効果が生じます(民法627条1項)。弁 護士法72条では、「弁護士又は弁護士法人でな い者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件 及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行 政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事 件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その 他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋を することを業とすることができない。」と定め られており、弁護士又は弁護士法人以外の者が 法律事務を取り扱うことは禁じられているとこ ろ、法律事務とは法律上の効果を発生・変更し たり、保全・明確にする事項についての処理 を意味するため(日本弁護士連合会調査室編著 「条解弁護士法〔第4版〕弘文堂、621頁参照)、 ②の場合には、当該退職代行サービス業者が従 業員に代わって会社に対し退職の意思を伝える ことは、弁護士法違反のリスクが存在します。 そこで、②の場合では、従業員の代理人ではな く、従業員の使者(本人の意思表示を伝達する だけの立場の者(メッセンジャー)であり、使 者に本人の意思決定を行う権限はない。)とし て退職の意思を伝えているという法的構成によ Q A Q&A 労働問題 12 兵庫経協2024年夏号

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