「兵庫経協」2024新年号

経協レポート KEIKYO REPORT 弁護士 普喜 啓 (神戸中央法律事務所) 異動と降格の考え方 営業部門で勤務する50歳代後半の 管理職がいますが、最近勤務態度が悪 く、多くの客先から出入り禁止となり、 業務を任せることができません。 他部門に異動させ、そこで雑務をさせるしかな いので、一般職に降格させたいが、可能でしょうか。 1 降格について (1)降格の種類 降格にはいくつか種類があり、ま ず、降格の根拠で区別すると、懲戒処分として の降格と人事権の行使としての降格があるとさ れます。また、引き下げる対象で区別すると、 職位や役職を引き下げるものと、職能資格制度 上の資格や職務等級制度上の等級を低下させる ものがあるとされます。 このように、一口に降格といっても、さまざ まな種類があり、その内容次第で適法か否かの 判断も異なってきます。以下では、簡単ではあ りますが、それぞれの降格の規制について整理 をしておきたいと思います。 (2)降格の適法性に関する考え方 ア 懲戒処分としての降格の場合 懲戒処分としての降格を行う場合、当然な がら懲戒処分である以上、懲戒処分としての 規制を受けることになります。ですので、就 業規則に懲戒処分として降格を行えることを 明示するとともに、実際に降格を行う際は、 懲戒事由への該当が必要となります。また、 処分の相当性について、懲戒権の濫用でない かが問題となりうる場合があります。 イ 人事権の行使としての降格 一方、人事権の行使により職位・役職を引 き下げることは、就業規則に定めがなくと も、労働契約に基づき、使用者の裁量判断に よって可能であるとされます。これは、職業 能力の発展に伴って諸種の役職に配置するこ とを予定する長期雇用のシステムの下では、 労働契約法上当然に使用者が労働者の企業内 での役割を決める権限を持つことが予定され ています。この権限が人事権です。よって、 例えば、課長の役職が与えられたものに対し て、勤務成績の不良などを理由として一般社 員に降格するということには特に問題がない ということになります。もっとも、その人事 権の行使に、相当な理由がないですとか、賃 金の大幅な低下など本人の不利益が大きい場 合などは人事権の濫用と判断される余地もあ ります。 これに対し、職能資格制度上の資格を引き 下げる場合には、就業規則等で資格の引き下 げが可能な場合を明示する必要があるとされ ます。これは、職能資格制度の評価対象が、 職務遂行能力であるところ、職務遂行能力は 技能、経験の積み重ねによって向上し、低下 することはないとされており、労働契約上当 Q A Q&A 労働問題 14 兵庫経協2024年新年号

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