「兵庫経協」2023夏号

みなさん、歯周病と言えば歯を失うだけだと思 われていませんか。実は歯を失うだけではありま せん。歯周病は全身のさまざまな病気とのかかわ りがあるので、このことを理解して歯とお口のケ アに努めましょう。 まずは、糖尿病です。歯周病の進行により産生 する炎症性物質が血液中に入ると、インスリンの 働きを低下させてるため、血糖値が下がりにくく なります。近年ではインプラント治療の成功率や 長期の安定性に糖尿病が影響していることも明ら かになっています。 2番目に心臓病です。歯周病が引き起こす動脈 硬化により、心臓に血液を送る血管が狭くなった り(狭心症)、詰まったりします(心筋梗塞)。また、 心臓の内膜に歯周病菌が付くと心内膜炎を引き起 こし、命にかかわることもあります。歯みがきと 動脈硬化の関連を調べた実験では歯みがきを中止 すると動脈硬化の血液マーカーが上昇し、歯みが きを再開するとマーカーが正常値に戻りました。 3番目に骨粗しょう症です。骨密度が低くなり 骨がもろくなる病気です。歯周病によって産生さ れる炎症性物質が全身の骨の代謝に悪影響を及ぼ すためと考えられています。 4番目に肥満です。歯周病が進んでいる人はメ タボリックシンドロームの発症が1.6倍高まるこ とが報告されています。 5番目に脳梗塞です。脳梗塞とは脳の血管が詰 まったり、心臓にできた血栓が脳に送られて血管 が詰まったりする病気です。歯周病にかかってい る人は、そうでない人の約2.8倍脳梗塞になりやす いと言われています。また、重度の歯周病は脳卒 中の危険因子であることが多くの研究により報告 されており、「歯周病で歯を失った本数が多い男 性は、脳卒中を起こしやすい」といった研究結果 も報告されています。 6番目に認知症です。歯周病が引き起こす動脈 硬化は、脳血管性認知症の原因になる可能性があ るとされています。また、アルツハイマー型認知 症との関連も明らかになりつつあります。 7番目に誤嚥性肺炎です。歯周病菌などのお口 の中の細菌が唾液や食べ物と誤って気管に入ると 肺炎発症のリスクが高くなります。これも、お口 の中を清潔にすることで発祥のリスクを下げるこ とができます。そのためには口腔ケアが重要で す。また、お口の中を歯ブラシなどで刺激するこ とが、誤嚥予防に効果的であることも分かってき ています。 8番目に関節リウマチです。手足の関節が腫れ て、痛みやこわばりが起こる病気です。多くの研 究により、歯周病の人は関節リウマチのリスクが 高いことが分かってきます。 9番目に低体重児出産、早産です。歯周病によっ て産生された炎症性物質が血液中に入ると低体重 児出産が起こりやすくなります。また、血液中に 子宮の収縮を早める物質が生まれるため、早産も 起こりやすくなります。 この他にも、がんや慢性腎臓病(CKD)、非アル コール性脂肪肝との関連性も分かってきました。 今後もさらに多くの病気と歯周病との関係が明ら かになってくるでしょう。 【歯の健康シリーズ】 T O P I C S 兵庫県歯科医師会 地域保健委員会委員 奥井 卓 歯周病と全身のさまざまな病気 16 兵庫経協2023年夏号

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