「兵庫経協」2022秋号

の就業の場所の変更により就業しつつその子の 養育又は家族の介護を行うことが困難となるこ ととなる労働者がいるときは、当該労働者の子 の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければ ならない。」と規定しています(同法26条)。会 社がこれらの配慮義務を尽くさず、従業員に著 しい不利益が生じる場合には、仮に会社が業務 上の必要性があると考えていたとしても、配置 転換は無効と判断される可能性があります。 実際に、親の介護や子の看護をしなければな らない従業員に転勤を命じた転勤命令を違法と 判断した裁判例もあります(東京地裁平成14年 12月27日判決、大阪高裁平成18年4月14日判決、 札幌高裁平成21年3月26日判決など)。 ⑶ ご質問の場合、その従業員を生産系の部門へ 異動させる業務上の必要性があり(従業員の能 力開発、労働力の配置の適正化、業務の効率化 など)、その異動が本人への制裁など不当な目 的ではなく、その従業員の家族の養育や介護に 関して特に配慮を要する事情もなく、通常の配 置転換で生じる負担を超える不利益が生じない のであれば、配置転換を命じることは可能です。 3.テレワーク廃止の可否 それまで認めていたテレワークを廃止し、実際 に出勤を命じることについても、前述の3要件が 当てはまります。 生産系の部門へ異動させる業務上の必要性があ れば、テレワークを中止して出勤を求める業務上 の必要性も肯定されるでしょう。配置転換を伴わ ずテレワークを廃止する場合であっても、「テレ ワークで生産性が低下している」「従業員とのコ ミュニケーションが取れず円滑な業務に支障が生 じている」という現状があれば、業務上の必要性 は認められると考えます。 また、実際に出勤する職場において、一般的に 求められるコロナ感染防止対策が取られているの であれば、当該従業員がテレワークを中止して出 勤することに伴う不利益は生じないと考えられる ため、配置転換は可能です。但し、従業員によっ ては、出勤を命じられることによって、テレワー クと両立できていた子の送迎や親族の介護に支障 が生じるかもしれません。会社としては、従業員 に通常甘受すべき程度を超える不利益を与えるこ との無いように、家族や生活の状況も念頭に置い て配置転換の可否を検討する必要があります。 4.キャリア権という視点 なお、配置転換の可否を判断するにあたっては 「キャリア権」に配慮すべきという議論がありま す。キャリア権とは、人々が意欲、能力、適性に応 じて仕事を選択し、職業生活を通じて幸福を追求 する権利と定義されます。従業員にとっても、自 分の得意分野で資格や経験を活かして活躍するこ とが仕事のやりがいを高め、人生を豊かにし、労 働を通じた社会貢献にもつながることが指摘され ています。特に中途採用した従業員について、そ の従業員が長年培ってきた能力・経験を生かすこ とができない現場に配置することができるのかと いった場面で問題となります。 この点について、近時の裁判例は、自らの運行 管理者としての資格を生かせると考えて採用面接 を受け、採用された従業員について、入社後間も なく会社が当該従業員を倉庫勤務に配置転換した 事案について、「本件配転命令は、業務上の必要性 が高いものではなく、運行管理業務や配車業務に 従事することへの原告の期待に大きく反し、その 能力・経験を活かすことができない倉庫業務に漫 然と配転し、原告に通常甘受すべき程度を著しく 超える不利益を負わせたもので、権利濫用にあた り無効」と判断しました(名古屋高裁令和3年1月 20日判決)。 もちろん、キャリア権をどこまで尊重すべきか については、会社の規模、事業内容、採用時の説 明内容等によって異なるため、配置転換権を行使 するにあたって会社に裁量があるという原則は揺 るぎません。しかし、従業員を配置転換する場合 には、本稿で取り上げたように、会社に配慮が求 められる事柄が少なくないことにご留意いただく 必要があります。 5.結論 以上のように配置転換を命じることが可能な場 合に、これを拒む従業員に対しては懲戒処分を行 うことが可能となります(就業規則に懲戒規定が あることが前提となります)。 9 兵庫経協2022年秋号

RkJQdWJsaXNoZXIy NDU4ODgz