「兵庫経協」2021秋号

当社 は 新型 コロナウイルスのワクチ ン 接種 を 推奨 していますが、ワクチン を 打 たない( 打 てない) 従業員 を 顧客対 応業務 から 他 の 部門 に 配置転換 し、 顧客 および 従 業員 が 感染 するリスクを 低減 させたいと 考 えてい ます。ワクチンを 打 っていないことを 理由 に 従業 員 を 異動 させることに 問題 はありますでしょうか。 1 ワクチンを 打 たない、 打 てない 方々 の 存在 日本でも新型コロナウイルスのワ クチン接種が相当程度進んできましたが、中に は「副反応が心配だ」等の理由でワクチンを打た ない人もいます。また、厚生労働省の「新型コロ ナワクチンQ&A」によれば、「ワクチンの成分に 対し、アナフィラキシーなど重度の過敏症(アナ フィラキシーや、全身性の皮膚・粘膜症状、喘鳴、 呼吸困難、頻脈、血圧低下等、アナフィラキシー を疑わせる複数の症状)の既往歴のある方」等は ワクチンを接種することができないとされていま すし、アストラゼネカ社のワクチンの場合、「ワク チン接種後に血小板減少症を伴う静脈もしくは動 脈の血栓症を起こしたことがある方」「毛細血管 漏出症候群の既往歴のある方」も接種をすること ができないとされています。 ワクチン接種の機会が増大するにつれ、上記の ようにワクチンを打たない(打てない)人に対し て、差別的な取り扱いがなされるケースも報告さ れるようになってきました。また最近では、「ワク ハラ(ワクチンハラスメント)」という言葉も耳に します。そこで、法的観点からこの問題を検討し てみたいと思います。 2 改正予防接種法 伝染の恐れがある疾病の発生や流行を予防する ために定めた法律として、「予防接種法」があり、 2020年12月の臨時国会で新型コロナウイルスのワ クチン接種を実施するための改正法が成立しまし たが、同法では、新型コロナウイルスワクチンの 接種は「努力義務」とされており、接種を受ける か否かはあくまで本人の意思に委ねられています。 また、同法改正時の国会の付帯決議においても 「政府は、本法の施行に当たり、次の事項につい て適切な措置を講ずるべきである。 ~ 二 新型コ ロナウイルスワクチンを接種していない者に対し て、差別、いじめ、職場や学校等における不利益 取扱い等は決して許されるものではないことを広 報等により周知徹底するなど必要な対応を行うこ と」とされています。 3 ワクチンを 接種 していない 従業員 に 対 する 企 業 の 対応 本年8月末時点で、全国各地での感染拡大は感 染力が強いとされる変異株(デルタ株)が中心と なり、これまではクラスター(感染者集団)が発 生しにくいと考えられていた百貨店などでもクラ スターが発生しています。この様な状況にあっ て、企業としては、従業員の安全な職場環境を確 保するだけでなく、取引先や顧客の安全を確保す る必要から、従業員に対してワクチン接種を促し Q A 弁護士 丸茂 英雄 (神戸伊藤町法律事務所) ワクチンを打たない(打てない)従業員を接客業務から外す異動が可能か。 Q&A 労働問題 8 兵庫経協 2021 年秋号

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