「兵庫経協」2021夏号

年金の月額)と総報酬月額(賃金月額と前年賞与 年額の12分の1の合計額)が47万円を超える場合 には、47万円を超えた金額の半分が老齢厚生年金 から減額されます。 3 賃金の実態 令和2年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)に よると、所定内給与額の平均は55〜59歳が387.7 千円、60〜64歳が302.6千円、65〜69歳が267.8千 円となっています。平均値で見る限り、60〜64歳 の賃金は55〜59歳の80%弱、65〜69歳では同様に 70%弱の水準になっています。 大企業では令和2年4月から、中小企業では令和 3年4月から、いわゆる同一労働同一賃金が適用さ れています。定年の前後で職務の内容や雇用形態 が大きく変化する場合が多く、平均値の単純な比 較によって同一労働同一賃金に反していると判断 することはできません。特に60〜64歳について は、高齢法により事実上、企業に雇用が強制され ていることや、特別支給の老齢厚生年金や雇用保 険の高年齢雇用継続給付が受給できる可能性があ ることなども考慮する必要があります。 裁判例でも、手当など個々の処遇の適用の有無 を理由に違法と判断したものはありますが、所定 内給与額の総額の差だけを理由に同一労働同一賃 金に反すると判断しているものは見当たりません。 とはいえ、これからの定年延長要請の高まりを考 えたときに、60歳以降の賃金を大きくダウンさせ ることは難しくなるかもしれません。かりに、60 歳以降の賃金減額が可能であるとしても、高齢者 のモチベーションを70歳まで維持することは困難 だと思われます。 4 企業の対応策 これらを前提に、企業としては今後の65歳以降 の雇用・就業に関する対応策を考えておく必要が あります。 改正高齢法には五つの選択肢が用意されていま すが、このうち「①70歳までの定年引き上げ」お よび「②定年制の廃止」は多くの企業では導入困 難だと思われます。平成29年の厚生労働省調査に よれば、定年制を定めている企業は95.5%に達し ており、そのうち80%近くが定年年齢を60歳とし ています。定年年齢を70歳まで引き上げるとなる と、多くの企業では今よりも10歳引き上げなけれ ばならず、国家公務員と同様に2年に1歳ずつ引き 上げるとすると、20年近くの歳月が必要となるば かりか、賃金体系や退職金制度等の大幅な見直し も必要になります。また、定年制を廃止するとな ると、解雇が容易には認められない現行法下にお いては、事実上の終身雇用制を採用することにな りかねません。 70歳までの雇用を考えるとすれば、「③70歳ま での継続雇用制度の導入」が現実的な選択肢とな るでしょう。現時点においても65歳までの何らか の継続雇用制度は採用されていますから、5年の 雇用延長を考えればよいことになります。賃金に ついても、現在の65〜69歳の賃金水準と老齢厚生 年金の水準(標準的なモデルで9万円程度)を前提 に考えると、55〜59歳時の賃金には及ばないもの の、60〜64歳時の賃金額よりは高くなりますので、 60〜64歳の賃金を引き上げ、65歳以降の賃金をも う少し低く設定するといった形で、企業としては 賃金原資をあまり増やさずに制度設計をすること もできそうです。さらに、在職老齢年金の仕組み により厚生年金が減額されることはあまりなさそ うですし、在職定時改定の導入により、65歳以降 の賃金が上がらなくとも年金が毎年上がっていく ことが期待できますので、高齢者にとっても受け 入れやすいでしょう。 雇用以外の方法としては、「④70歳まで継続的に 業務委託契約を締結する制度の導入」と「⑤70歳ま で継続的に以下の事業に従事できる制度の導入」 が選択可能ですが、このうち、⑤についてはあま り活用されなさそうに思えます。経済的に余裕の ある状況でなければボランティア活動を続けるこ とは難しいでしょうし、余裕があったとしても企 業が主導する活動に参加するかどうかは疑問です。 一方、④については導入が増えるのではないか と考えられます。コロナ禍でジョブ型の働き方が 注目されるようになってきましたが、業務を切り 出し、専門性を持った高齢者に業務委託すること は可能だと思われます。高齢者にとっても時間や 場所に縛られることなく働くことができるうえ、 個人事業主となることで年金保険料の負担や在職 老齢年金の対象となる可能性がなく、支給開始年 齢の繰下げも可能になるかもしれません。 執筆者プロフィール 宮内 雅也 (みやうち まさや) 1985年 関西経営者協会 事務局入局 2009年 団体統合により(公社)関西経済連合会事 務局入局 2014年 人事労務倶楽部(社会保険労務士事務所) 開設、現在に至る 5 兵庫経協 2021 年夏号

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