「兵庫経協」2021夏号

皆さんは、特に気にかけたことがないと思われ ますが、日々の食生活において欠かせることので きない唾液について述べたいと思います。 成人の唾液は、1日に1ℓから1.5ℓも分泌され ています。もし、唾液が出なくなったらどうなる でしょう。お口の中は、乾燥して砂漠のような状 態になり、のどが渇いてとてもつらい状態になる と思います。唾液にはお口の中を潤して乾燥を防 ぐ効果があり、その効果によって、食物を飲み込 みやすくしているのです。 このほかにも、色々な効果がありますので、順 番に述べていきます。 ※消化 を 助 ける 作用 唾液には、食べ物の中のデンプンを分解する酵 素があり、食べ物が唾液と混ざると、その酵素が 働いて食べ物を柔らかくし、胃で消化しやすい状 態にします。 ※粘膜保護作用 唾液中の「ムチン」というたんぱく質に保湿作 用があり、さらに食物などからの刺激から口腔内 の粘膜を守る作用もあります。 ※歯 の 再石灰化作用 唾液中の「ハイドロキシアパタイト」という成 分が、脱灰されたエナメル質の表面を修復してむ し歯になりにくくします。 ※ pH 緩衝作用 普段は中性の口腔内ですが、食後には酸性にな りそのままでは歯が溶けてしまいます。唾液には これを中性に戻す働きがあります。 ※抗菌作用 外部からお口の中に侵入してきた細菌などに対 して、唾液中の「ラクトフェリン」や「リゾチー ム」等の成分が細菌の増殖を抑制します。 そのほかにも、味を感じやすくする作用や、唾 液中の「パロチン」という物質によって、老化防 止にも役立つとも言われています。 このようにいろいろな働きがある唾液ですが、 最近、唾液の量が少なくなってきて、口が乾きや すくなったと訴える患者さんが増えてきています。 この状態を「ドライマウス」と言います。唾液が 少なくなる原因ですが、ストレス、口呼吸、不潔 な口腔内、乾燥した室内等の生活習慣や環境によ るものや、シェーグレン症候群や糖尿病、パーキ ンソン病等の病気が原因になるものがあります。 その他、加齢によるものや、高血圧の治療薬が原 因の場合もあります。 では、どうすれば唾液をたくさん出せるかと言 いますと、まずはよく噛むことです。柔らかい食 材が多い現代の日本人は、あまり噛まなくなって きているようです。よく噛むことによって唾液が 増え、消化が良くなり、肥満防止になる以外にも 脳細胞の活性化にもつながっていきます。 食べ物によっても唾液の出方は変わってきます。 柔らかいものよりも、ある程度噛みごたえのある 食品の方がたくさんの唾液が出ます。梅干しやレ モンのようなすっぱいもの、昆布や納豆も唾液の 出が良くなります。ガムを噛み続けることも唾液 が出やすくなります。 こういった食べ物や食べ方を工夫する以外にも 唾液を増やす方法があります。それは唾液腺の マッサージです。主な唾液腺には、耳下腺、顎下 腺、舌下腺があるのですが、それぞれをマッサー ジすることにより、唾液が出てきます。このマッ サージの方法については、かかりつけの歯科医院 で詳しく教えていただけると思います。 唾液の分泌量が減ってきたために、あっという 間にむし歯が増えてきている患者さんを本当によ く見ます。最近、よく口が乾くと思われましたら、 歯科医院を受診して相談してみて下さい。なにか 対処法を教えていただけると思います。 【歯の健康シリーズ】 T O P I C S 唾液 について 兵庫県歯科医師会 地域保健常任委員会委員 井上 貴雄 19 兵庫経協 2021 年夏号

RkJQdWJsaXNoZXIy NDU4ODgz