「兵庫経協」2021春号

の3点に着目して、今回の検討対象に挙がってい る各制度について以下見ていきましょう。 3 ①保養所 の 廃止 やスポーツジム 利用補助 の 廃止 従業員の保養や研修等に用いるために保養所を 自社で保有したり(自社保有に限らず、借上げ型 や契約型、企業間の相互利用等、昨今では多岐に わたる形態があります。)、従業員の健康維持のた めにスポーツジムの法人会員となっている企業も 少なくないかと思います。 この点、こういった保養所やスポーツジムの利 用は、通常は企業の業務とは関連しないもので あって純粋に恩恵的な福利厚生給付といえるこ とが多く、これらが廃止されることによる「労働 者の受ける不利益の程度」は福利厚生給付の中で は比較的小さいといえるでしょう(ちなみに、と ある「なくてもいい福利厚生」という標目のアン ケートにおいては、「保養所・運動施設」が「社員 旅行」に次いで2位という結果だったようです。)。 したがいまして、今般のコロナ禍の長期化に伴 う業績悪化によるコストカットの必要性(「労働 条件の変更の必要性」)に応じて相当と認められ る変更(「変更後の就業規則の内容の相当性」)で あれば、通常は合理的な変更といって差し支えな いのではないでしょうか。但し、あくまでも変更 の必要性に応じた相当な変更であることが必要で すので、例えばコロナ禍による業績悪化が幸いに も微々たるものであったにもかかわらずかなり多 くの従業員がスポーツジムを利用しているような ケース等個別の事情によっては別途の検討を要す る場合はあり得ます。 4 ② 住宅 ローンの 利子補給制度 の 利子補給率 の 引 き 下 げ 住宅ローンの利子補給金は、金銭で支払われる 点で①及び③と異なるものの、やはり上述のとお り労務の対価として支払われる「賃金」ではない とされています。 そして、このような利子補給金は、企業の業務 とは直接的に関連しないという点では①と共通し ますが、一方で労働者の生活の本拠たる自宅の維 持のための補助である点で、労働者にとっては非 常に重要な日々の生活に直結した制度ということ ができ、これが廃止されることによる「労働者の 受ける不利益の程度」は決して小さいとはいえま せん。 したがいまして、今般のコロナ禍の長期化に伴 う業績悪化によるコストカットの必要性(「労働条 件の変更の必要性」)に応じて相当と認められる変 更(「変更後の就業規則の内容の相当性」)といえ るには、①と比べるとそのハードルはかなり高い といえ、先ずは他のコストカットの可能性を検討 すべきでしょうし、業績悪化が著しくやはり変更 を実施せざるを得ない場合であってもその引き下 げ幅等については慎重な検討が必要といえます。 5 ③社員食堂 の 廃止 社員食堂も代表的な福利厚生給付の一つです が、1日の就業時間が極めて短時間であるといっ た特殊な場合を除いては、通常は1日の就業時間 の途中で一度は食事を摂る必要があるはずですの で、業務に関連する程度としては①~③の中では 一番大きいものといえます。 しかしながら、これを廃止することによる「労 働者の受ける不利益の程度」はケースバイケース であり、繁華街の中にある事業所でほとんどの社 員が社員食堂を利用せずに持参した弁当や外の飲 食店で食事を摂っているような場合には廃止によ る「労働者の受ける不利益の程度」は非常に小さ いといえますが、例えば周りに飲食店やコンビニ エンスストア等の食事をしたり弁当を購入したり することのできるところが全く無い立地の事業所 においては、社員食堂は当該事業所に勤務する労 働者にとって無くてはならない施設でしょうか ら、廃止による「労働者の受ける不利益の程度」 はかなり大きいということになります。また、そ のような立地ではないにしても、これまで社員食 堂での食事は無料ないしは非常に廉価で提供され ていてほとんどの労働者がこれを利用しているよ うな場合も、廃止による「労働者の受ける不利益 の程度」はやはり大きいと評価されることになり ます。 したがいまして、今般のコロナ禍の長期化に伴 う業績悪化によるコストカットの必要性(「労働 条件の変更の必要性」)に応じて相当と認められ る変更(「変更後の就業規則の内容の相当性」)と いえるかどうかも、これらの個別の事情によって 大きく変わってくることになり、ほとんどの社員 が社員食堂を利用していないような場合には廃止 はかなり広範に合理的な変更と言って差し支えな いでしょうが、そうでない場合には②と同じく慎 重な検討が必要となるでしょう。 13 兵庫経協 2021 年春号

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