「兵庫経協」2021春号

当社 は、コロナ 禍 の 長期化 に 伴 う 業績 悪化 のため、 就業規則上 の 福利厚生給 付 の 廃止等 を 検討 しています。 具体的 には、 ①保養所 の 廃止 やスポーツジム 利用補助 の 廃止 ② 住宅 ローンの 利子補給制度 の 利子補給率 の 引 き 下 げ ③社員食堂 の 廃止 を 想定 していますが、これらの 措置 を 行 うことに 問題 はないでしょうか。 1 はじめに 一昨年に中国・武漢にて発生したと され、わが国においても昨年以降急速 に感染を拡大し、1年以上が経過した現在もなお 収束の兆しが見えないコロナ禍の長期化の影響に より、経営方針の転換等非常に大きな決断を迫ら れている企業は少なくないかと思います。 そのような中で、従業員の雇用だけでなく会社 そのものを守るため、可能な限りのコストカット は当然ながら検討すべき課題として挙げられてい るのではないでしょうか。 今回は、そのような中でも検討すべき候補とし て挙げられることが多いであろう様々な福利厚生 給付の廃止や縮小について、問題点を検討してい きたいと思います。 2 福利厚生給付 は 労働条件 に 含 まれるか ( 労働条件 の 不利益変更 ) まず検討の前提としまして、福利厚生給付は、 労働条件、すなわち労働者が労働を行う上での労 働契約上の条件ないしは約束事に含まれるので しょうか。 この点、福利厚生給付は、労働者が提供する労 務の正に対価として使用者が支払う「賃金」とは 一線を画すものとされていますが(ただし、住宅 ローンの利子補給のように金銭の形式で支払われ るものは、「賃金」ではありませんが、社会保険料 の算定対象や所得税の課税対象にはなります。)、 あくまでも労働者たる身分に基づいて受けること ができる待遇には違いありませんので、やはり労 働条件の一部を構成するものとなります。 また、福利厚生給付を事業所内の労働者に広く 適用する場合には、就業規則の必要記載事由とな りますので(労働基準法第89条第10号)、その内容 を廃止ないしは縮小する場合には就業規則を変更 してこれを行うことになります。 そして、就業規則を変更してこれまで実施して いた福利厚生給付を廃止ないしは縮小すること は、労働条件の不利益変更に該当しますので、「変 更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業 規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労 働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容 の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就 業規則の変更に係る事情に照らして合理的なも の」でない限りはこれをすることができないもの とされています(労働契約法第9条、同第10条)。 すなわち、就業規則を変更して労働条件の一つ である福利厚生給付を廃止ないしは縮小するため には、まず形式的な要件として、変更にかかる就 業規則を事業所内の労働者に周知すること、すな わち労働者がいつでもこれを見られる状態に置く ことが必要であり、さらに実質的な要件として、 当該変更が合理的といえることが必要となります。 そこで、この‘合理的な変更’という実質的な要 件について労働契約法が掲げている基準、「労働 者の受ける不利益の程度」、「労働条件の変更の必 要性」及び「変更後の就業規則の内容の相当性」 Q A 弁護士 西中 秀允 (江戸町法律事務所) 業績悪化による福利厚生給付の廃止や引き下げ Q&A 労働問題 12 兵庫経協 2021 年春号

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