「兵庫経協」2024秋号

ことはできません。 もっとも、労働条件通知書に職種が技術職と記 載されているとしても、そのことをもって直ちに 当社とAとの間で職種限定合意があるとされるわ けではありません。 つまり、Aが採用時に他の職種に変更すること はないと説明されて入社している場合、医師、看 護師、ボイラーマンのような特殊な資格や技術を 有しており、その資格や技術を必要とする職種に 就くために入社している場合や、臨時的・一時的 な業務のために期間限定で雇用されて入社してい る場合は、通常、その記載をもって職種限定合意 があるとされることになります。しかし、Aが他 の職種に変更することがあり得ると説明されて入 社している場合は、職種限定合意があるとされる ことはありませんし、これら以外の場合で、Aが 定年までの長期雇用を前提に採用されて入社して いるときも、同じ事業と同じ業務を続けることが できる企業はほとんどなく、どのような企業で あっても、通常、中長期的には、新分野展開、事 業転換、業種転換、業態変換、技術革新等により、 労働者の従事する職務の内容を変更せざるをえな いため(Aのために当該職種を維持し続けること はできない。)、その記載は、当分の間の職種を定 めたに止まるとされることが多いところです。 そのため、設例の場合は、Aの資格の有無、当 該資格と職務の関係、当該資格の取得と採用の先 後、当該資格の取得難易度、職務の専門性の程度、 求人票における記載内容、採用時の説明内容、労 働契約の期間、職種別の雇用管理の有無、他の技 術職の労働者の職種変更の有無などを考慮して、 当社とAとの間で職種限定合意があったといえる か、あるいは当分の間の職種を定めたに止まるか を具体的に検討することになります。 そして、これらの検討を経て、職種限定合意 があるといわざるをえない場合は、Aは配置転換 を拒否することができるという結論になり、他 方、職種限定合意があるとはいえない場合は、当 社に就業規則の定めによる配転命令権があります ので、配置転換について、退職に導く意図でなさ れる、会社批判の中心人物に対する見せしめであ るなど、業務上の必要性とは関係がない不当な動 機・目的をもって命じている場合を除き(これら の場合は権利濫用とされることがあります。)、A は配置転換を拒否することができないという結論 になります。 なお、令和6年4月1日以降に締結される労働契約 については、労働条件通知書に従事すべき業務の 変更の範囲を明示することが必要となっています。 当該労働契約については、将来の職種変更があり 得るのにその記載がない場合、職種限定合意があ るとされやすくなりますので、注意が必要です。 3.勤務場所限定合意 次にBについてですが、こちらも確かに、会社 と労働者との間で勤務場所を限定する合意(勤務 場所限定合意)がなされていた場合は、当該労働 者の同意なく勤務場所を変更することができない とされています。そのため、当社とBとの間で勤 務場所を第二工場に限定するとの合意がなされて いた場合は、Bが同意しない限り、第一工場へ転 勤させることはできません。 もっとも、こちらも職種限定合意と同様、労働 条件通知書に勤務場所が第二工場と記載されてい るとしても、そのことをもって直ちに当社とBと の間で勤務場所限定合意があるとされるわけでは ありません。 つまり、Bが地元採用枠で採用され、その枠で 採用された労働者には慣行上転勤がなかった場 合、採用時に他の勤務場所に転勤させることはな いと説明されて入社している場合や、家庭の事情 等により転勤できないと申し出て採用されている 場合は、通常、その記載をもって勤務場所限定合 意があるとされることになります。しかし、Bが 他の勤務場所に転勤することがあり得ることを説 明されて入社している場合はもちろん、Bの入社 9 兵庫経協2024年秋号

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