弁護士 高橋 弘毅 (弁護士法人神戸シティ法律事務所) 配転命令を行う場合の留意点 当社には神戸市の本社併設の第一工 場と豊岡市の第二工場がありますが、 経営環境の変化に伴い第二工場の規模 を縮小することになり、第二工場で勤務する技 術者のAとBに異動してもらうことにしました。 ところが、第二工場内の事務部門への異動を命じ たAは、労働契約上、職種が技術職に限定されて いる、第一工場への異動を命じたBは、労働契約 上、勤務場所が第二工場に限定されているとそれ ぞれ主張し、ともに異動を拒否しています。確か に、Aに交付した労働条件通知書には、職種が技 術職と記載されており、Bに交付した労働条件通 知書には、勤務場所が第二工場と記載されていま す。しかし、当社は、就業規則に「会社は、業務 上必要がある場合に、労働者に対して就業する場 所及び従事する業務の変更を命ずることがあり、 労働者は、正当な理由なくこれを拒むことはでき ない。」と定めています。AとBは、異動を拒否す ることができるのでしょうか。 1.配転命令権 設例は、配転命令権の問題です。配 転命令の「配転」とは、職務内容又は 勤務場所が相当の長期間にわたって変更されるこ とをいい、この内、同一勤務場所内の所属部署の 変更(職務内容の変更)が「配置転換」、勤務場所 の変更が「転勤」になります。当社は、この配転を 命じる「配転命令」として、Aに配置転換を、Bに 転勤を命じたものです。 配転については、労働契約あるいは就業規則に 定めがなければ命じることができませんが、当社 には就業規則に配転命令権の定めがありますので、 この問題はありません。もっとも、労働契約にお いて、就業規則の内容と異なる労働条件を合意し ていた場合は、就業規則で定める労働条件を下回 らない限り、当該労働条件が適用されることにな ります(労働契約法第7条但書)。 設例の場合、Aは、当該合意として職種限定合 意があるため、他の職種への配置転換を命じるこ とはできない、Bは、当該合意として勤務場所限 定合意があるため、他の勤務場所への転勤を命じ ることはできないとそれぞれ主張しているものと 思われます。 2.職種限定合意 まずAについてですが、確かに、会社と労働者 との間で職種を限定する合意(職種限定合意)が なされていた場合は、当該労働者の同意なく職種 を変更することはできないとされています。社会 福祉法人滋賀県社会福祉協議会事件(最高裁令和 6年4月26日判決)においても、その旨が判示され ています。そのため、当社とAとの間で職種を技 術職に限定するとの合意がなされていた場合は、 Aが同意しない限り、Aを事務職へ配置転換する Q A Q&A 労働問題 8 兵庫経協2024年秋号
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