「兵庫経協」2022秋号

会社として必要な配置転換のた め、テレワーク可能な部署の従業員に テレワークが不可能な生産系の部署 への異動を命じたところ、その従業員はテレワー クが不可能なことを理由に異動を拒否しました。 この場合、本人の同意なく異動を命じることは 可能でしょうか。また、本人が拒否し続けた場合 は、業務命令違反として懲戒処分を科すことは可 能でしょうか。 1.問題の背景 ここ数年で急速に広まったテレ ワークですが、近時、テレワークを原 則的な働き方とする動きがある一方で(NTTな ど)、テレワークを縮小して出社を求める動きも あるなど(楽天、ホンダなど)、企業の対応も分か れてきていることが報道されています。 従業員にどのような働き方を求めるかは、その 会社の事業内容や経営方針によって様々です。会 社は人事権、業務命令権を有していますので、テ レワークのデメリットが大きいと判断した場合に は、従業員に対して出社して勤務することを求め ることができます。しかし、そのような会社の権 限にも限界があるのではないか、会社は従業員が 希望する働き方に一定の配慮をすべきではない か、という点が問題となります。 今回のご質問は、配置転換(異動)の可否とテ レワークを廃止することの可否という2つの論点 を含んでいますので、分けて検討します。 2.配置転換の可否とその要件 ⑴ 会社が従業員に対して配置転換を命じるに は、就業規則などにおいて配転命令権が規定さ れていることが必要です。一般的な就業規則に は、「会社は、業務上必要がある場合に、労働者 に対して就業する場所及び従事する業務の変更 を命ずることがある。」などという形で配転命 令権が明記されていますので、この権限の有無 が問題となることは少ないと思われます。 なお、配転命令権の規定が存在する場合で あっても、当該従業員について勤務場所や職種 を限定する特約が存在する場合には、その特約 が優先します(労働契約法第7条但し書)。この ため、その特約に反する配置転換を行う際には 当該従業員の同意が必要となります。 ⑵ このように、就業規則などに配置転換に関す る規定があり、勤務場所や職種を限定する合意 が存在しなければ、会社は従業員に配置転換を 命じることができます。但し、例外的に配置転 換が会社による権利の濫用と評価される場合も ありますので注意が必要です。 配置転換が権利の濫用にあたるかどうかは、 次の3つの観点から判断されます(最高裁昭和 61年7月14日判決)。 ①転勤命令に業務上の必要性があるか ②転勤命令に不当な動機・目的があるか ③通常甘受すべき程度を著しく超える不利益 を従業員に負わせるか 例えば、育児介護休業法は、「事業主は、その 雇用する労働者の配置の変更で就業の場所の変 更を伴うものをしようとする場合において、そ Q A 弁護士 高島 浩 ((弁)神戸シティ法律事務所) テレワーク可能な職場から不可能な職場への異動を拒否する従業員の取扱い Q&A 労働問題 8 兵庫経協2022年秋号

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