「兵庫経協」2022春号

新型コロナウイルスの流行からまもなく2年、 第6波という波に飲み込まれている今、感染者数 は日本国全体で251万人(1月30日現在)を超え、 これまでに1万8692人以上もの方が亡くなってお られます。 Virus(ウイルス)はラテン語で「毒」を意味す るように、細菌より遥かに小さい病原体は、時に 殺人ウイルスとしてパンデミックを引き起こした り、がんの原因にもなる為、度々人類の脅威と なってきました。2020年より世界中を震撼させて いるこの新型コロナウイルスですが、口腔はこの ウイルスの重要な侵入門戸であるとともに、炎症 が惹起される気管支や肺などの下気道の入口でも あります。従って、新型コロナウイルス感染症を 口腔の視点から考えることはとても重要です。今 回「感染予防はお口の健康から」と題してお話を させていただきます。 今までとは全く変わってしまった日常生活 感染予防の為にマスクをつける生活が定着して いますが、このマスク、感染予防になる反面、少 し気になることもあります。人を含め哺乳類は基 本的に鼻で呼吸をしています。鼻で呼吸をするこ とで、鼻の中のフィルター構造が吸った空気をき れいにして、そのきれいな空気を肺まで送り届け ます。マスクをするとどうしても呼吸がしにくく なりますよね。その為マスクをすると、肺に多く の空気を取り込もうとして、自然と口呼吸になり やすくなります。 口呼吸をする癖がついてしまうと、吸った空気 がそのまま直接肺に送り込まれるので、マスクを していない時はもちろん、マスクの隙間からも汚 染された空気が細菌などと一緒に吸い込まれる恐 れがあります。 口腔ケアをご存知ですか? 高齢者の死亡原因の一つである「誤嚥性肺炎」 をご存知でしょうか。「誤嚥性肺炎」とは、衛生状 態の悪い口のままで生活すると、口の中の細菌が 気管支や肺に侵入し、肺炎を引き起こす病気で す。誤嚥性肺炎などの感染症を予防するために、 歯磨きを中心としてお口の中を綺麗にお手入れす ることを「口腔ケア」といいます。お身体が不自 由な方には、歯科医師や歯科衛生士がご自宅や施 設に器具を持参し、口の中の掃除を行う、訪問に よる口腔ケアという手段もあります。 免疫力を上げましょう 免疫力というのは、体内に入った細菌やウイル スから自分を守る力のことです。主に、血液中の 白血球が免疫力の担当をしていますので、血流を 良くして血液を全身にいきわたらせましょう。血 液中の白血球が私たちの身体をパトロールしてく れているのです。血流を良くする為には筋肉の働 きが必要です。自粛生活で運動不足になっていま せんか?しっかり身体を動かしましょう。免疫力 アップの5か条として、①ストレスをためない② 適度な運動③質の高い睡眠④栄養バランスの良い 食事⑤生きがいのある生活をする、よく笑う を 挙げておきます。 感染予防のためには 手洗い、うがいにもう一つ、歯磨きも習慣にし ましょう。口の中を清潔にして、ウイルスなどを シャットアウトしましょう。口の中が汚れている と、口の中の細菌が増殖し、その細菌が出すタン パク質分解酵素によって歯ぐきや口の粘膜、そし て喉の粘膜が荒れていきます。その傷ついた粘膜 からウイルスや細菌が侵入していくのです。 ウイルスや細菌などからの感染を予防するため には、毎日のブラッシングと歯科医院での定期的 な歯のクリーニング、場合によっては必要な治療 を受けることが大切です。 最後に 感染症の克服は人類の永遠のテーマです。天 然痘ウイルスによる天然痘は1980年に根絶されまし た。しかしヒトのみに感染する天然痘ウイルスと は異なり、コロナウイルスは野生動物にも感染す るため、人類がヒトからウイルスを排除したとして も、野生動物の中で生き延びたウイルスが再びヒ トに感染する恐れがあるため、その根絶は不可能 と考えられます。歯科の二大疾患である「歯周病」 と「う蝕」が感染症であるということはご存知で しょうか。我々歯科医療従事者には、「口腔微生 物が誘因となる炎症は全身に広がる」という認識 と、口腔のみならず全身の健康維持のため、また 感染予防の観点からも「ウイルス、細菌感染症対 策の最前線に立っている」という気概を持つこと が改めて求められています。 これから私たちは、ウイズコロナのこの時代、 ウイルスや細菌と共存しながら生活していくこと になります。いつまでも健康で美味しく食事をして、 楽しい毎日を送れますよう共に頑張りましょう。 【歯の健康シリーズ】 T O P I C S 感染予防はお口の健康から 兵庫県歯科医師会 地域保健常任委員会委員 坂本 浩 16 兵庫経協2022年春号

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